男性 不妊症 鍼灸体験談

今日は、石川さんの奥さんが婦人科へ行ってこの間の人工授精の結果がわかる日。
早く、帰って結果が知りたい半面、やっぱり「ダメだろうなあ」とあきらめる気持ちが出てくる。
もうすぐ30回目になる人工授精。
そろそろ2人で生きていこうよっと言いたいが、それは自分に原因が在る身としては口にできない。
しかし結果が分かって帰ってきた彼女のつらそうな顔を見るのもつらい。
40歳に近づいてきた彼女は今度こそはとの思いで臨んだはず。
運動率2%、奇形率98%、これが自分の精子の検査結果であった。
病院で精子の調整後は静止運動率が47%になっていたが、今までも、同じように調整してもらってもダメだった。
どんどん心は悲観的になっていく。
せめて早く帰って彼女を慰めたいと思うが、(いやいやこんな悲観的になってどうすると自分に叱咤激励するもののどうにも気持ちが上がってこない)
仕事は今日も山のように押し寄せてきている。
やってもやっても果てがない。
今日も残業。
土日は、いつも仕事を家に持ち帰ってやっているが、それでもこの仕事量。
毎朝飲む栄養ドリンクで頑張っているような感じである。
やっと帰宅できたのは、10時。これでも早いほうである。
出迎えてくれた妻の顔を見ると…想像していた通り。
想像していた通りと言っても心が折れる。
妻の心はきっと自分よりひどいはず。40歳近くなって、妊娠する確率はどんどん遠ざかっていくことがどれほどつらいか。
自分には、想像できても実感できない弱さがある。
しかし、このままいったら妻の心が救いのないところまで行くのではないかと心配になる。
【年齢とともに卵子も年をとります。胎児の時に200万個作られた卵子が年とともに減少しますから、早く不妊治療されることが望ましいのです】とは病院の先生の説明の中で心に残っている言葉である。
何とかしたい。
しかし、この惨めな精子の状態を良くする方法があるのかといえば…そんな魔法みたいなものがあるわけないじゃないかと理性が言う。
しかしこのままやっても同じ結果しか得られない。
むしろ、年を重ねれば重ねるほどに難しくなることは必定。
病院の先生に提案された体外受精に挑戦することに決めた。
しかし、心配もある。
自分の精子の状態が変わらないのに体外受精をして、良い結果が出るのかという心配があった。
不妊の原因は妻には全くなく、自分に原因があるので、体外受精をしても結果は同じという思いが妻にも自分にもあったから。
今まで体外受精をしなかったのである。
しかし、最後の手段として体外受精に挑戦した。
もうこれでだめだったら打つ手はないという思いで臨んだのだが…結果は✖…妻も自分も打ちのめされて、しばらくは言葉も出なかった。
特に自分は、これからどうしていけばいいのかわからなくなっていた。自分の精子を正常にする方法はないのかと、必死にスマホで検索していると見つかった。
男性不妊症のことを書いているホームページが見つかった。
たつみ鍼灸院… 鍼灸治療で精子がよくなる?信じがたい思いで読む。
病院の治療でダメだったのが鍼灸で治るわけないだろうというのが最初の感想だった。
しかし自分にはどんな手も残されてない。
ダメもとで行くしかないか。
あきらめ半分のこんな思いで予約を入れた。
予約当日、少し緊張気味で鍼灸院に向かう。
(ダメでもともと、ダメでもともと)と心の中で呪文のように、唱えながら。
今まで期待すればするほどその期待がかなわなかった時のギャップが恐ろしい。
ベッドに横になり、脈を診られ、肩や手足を触診される。
「えらい冷えておられますね。」と言われる。
(え??自分で冷えを自覚したことがなかった。)
自分の手で足を触る。
「手も冷えておられるから、今触られても足の冷えはわからないと思いますよ。手が温かくなってから触っていただきますね。」と言われそういうものかと思う。
しかし、冷えと不妊の関係がわからない。
今まで病院で冷えのことを言われたことが全くない。
はりを刺してもらってしばらくすると、体が温かくなってきた。
手も温かい。それじゃあ。「足を触ってください。」と言われたので足を触る。
びっくりするほど冷たい。
自分の足なのに気が付かなかったことにもびっくり。
また脈を診られて、手足の指も触診され、舌も診られて、はりを刺される。
「石川さんはストレスもめちゃくちゃ多いですね。これほどストレスを抱えておられたら、しんどいでしょうね。」と言われる。
もちろん男性不妊症のことは、自分にとって大きなストレスだが、仕事のことも大きなストレスになっているのかもしれない。
仕事は好きでいくら残業をしても土日の仕事でも苦にはならなかったつもりだが…睡眠も十分とれているとは言えない毎日だった。
これらの積み重ねが男性不妊症の原因になったのでしょうと言われた。
この言葉を聞いてほっとした。
自分自身がもともと男性不妊症の原因を持って生まれてきたわけではないと言われたわけだから。
この言葉だけでもどれほどうれしかった分からない。
今まで背負っていた重い荷物が軽くなった気持だった。
鍼灸院に来たかいがあったと思った。
鍼灸治療が終わると身も心も軽くなっている。
温かい体を作るように努力する(具体的な方法は事細かに教えてもらった。)ことを約束して鍼灸院を後にする。
ストレスについては針治療でとってもらうことができるとのこと。
しかし、睡眠についてなど生活の仕方が変えられるところは努力してくださいとのことだった。
なんだかやる気が出てきた。
できるだけ早く寝るようにしよう。
訪問先で出していただいたコーヒーなど体を冷やす飲み物はどう断ろうかと考える。
鍼灸治療3回後、病院に行った妻が笑顔で言った。
「びっくりよ。検査結果がよくなっているのよ。」
見ると…本当にびっくりした。
「え!!嘘じゃない」と思わず言ってしまった。
精子運動率が10になっている。
奇形率が下がっている。
こんなに早く結果が出るなんて信じられない思いだった。
この数値なら期待できるでしょうとの病院の医師の言葉に力をもらって体外受精を受ける。
結果は✖。
妻はもちろん自分も奈落の底に落された思いがした。
鍼灸院では「心配いりませんよ。長い間精子の状態が悪かったのだから、体が健康な精子を常時作れるようになるには少し時間がかかるのでしょうね。このまま治療を続けられたらそういう状態になるのだから、今まで通り頑張ってください。」とのことだった。
この言葉を信じて頑張ることにした。
確かに精子の状態は検査のたびに変わる。
いい時もあればそんなにいいとは言えない時もある。
自分の生活を反映しているなあと思う。

仕事が忙しくて生活が無茶苦茶になっている時はやはり数値は期待するほどではない。
しかし以前の悲惨な数値から見れば改善していることは確かである。
鍼灸治療に希望を見出した思いで、生活を改善できるるところは改善していくように努力をする。
もちろん、仕事で残業しなければならないことは多いが、食生活(胃腸を冷やさない)、睡眠時間、運動などできる範囲で頑張った。
そして…1回目の体外受精から1月後、2回目の体外受精で妊娠が成功した。
妻の涙は…今度はうれし涙だった。
もちろん、石川さんの目にも…この後、超音波による胎児の心拍の確認もできた。
あとは無事に出産できることを願うばかりの石川さんでした。